更新日:2024年11月27日更新
時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、RUC(研究大学コンソーシアム)に設置されております「学術情報流通の在り方に関する連絡会」では、オープンアクセスを巡る諸問題についての連続セミナーを開催しております。このほど第6回「学術誌・データのオープン化、質、逃れられない曖昧さと実践的アプローチ」を下記のとおり実施することになりましたので、ご案内いたします。
オープンアクセスの進展は学術誌の質を多様なものとし、同時にそのよしあしが二値的に判断できない(=逃れられない曖昧さを伴う)ことを理解・共有する重要性が一層増しています。加えて、技術進展やデータ共有の動きも相まって、問題の複雑性は高まってきました。今回のセミナーでは、それらを踏まえ、研究成果の社会実装の在り方に実践的に取り組んできた、大阪大学の井出和希特任准教授に動向を伺います。ご関心のある皆様の参加をお待ちしております。
記
1.セミナー演題:
「学術誌・データのオープン化、質、逃れられない曖昧さと実践的アプローチ」
2.開催日時:令和6年11月8日(金)13:30-15:00
3.開催方法:ハイブリッド(対面+Zoom 配信)
4.開催会場(対面):
ビジョンセンター東京駅前 701号室
https://www.visioncenter.jp/tokyo/ekimae/access/
※JR「東京駅」八重洲中央口・北口から徒歩1分、八重洲地下街直結、東京メトロ「日本橋駅」から徒歩5分。
5.講師:井出和希氏
(大阪大学 感染症総合教育研究拠点/社会技術共創研究センター(ELSIセンター)特任准教授)
6.プログラム:
1 趣旨説明
2 講演
3 質疑応答
7.アフターセッション(茶話会):
プログラム終了後、会場にて講師を含め参加者同士の情報交換の場を設けます(対面参加者限定・途中退席可・茶菓付き・参加者の費用負担なし)。「8」の参加申込からお申込みください。16:00終了予定。
8.参加申込:
11月5日(火)までに以下のフォームからお申込みください。後日、ご登録いただいたメールアドレス宛に参加情報をお送りします。
<申し込みは終了しました。>
当日の動画(YouTube)
関連資料:
井出和希, 林和弘, ホーク・フィリップ, 清水智樹. 粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために(増補版).IAP 2023: 27pp. https://doi.org/10.18910/91457
井出和希, 林和弘, 小柴等. プレダトリージャーナル判定リストの実態調査. NISTEP RESEARCH MATERIAL. 2023: No.326. https://doi.org/10.15108/rm326
井出和希, 中山健夫. 論文投稿先検討のためのチェックリスト(2023年6月版).Think.Check. Submit. 2023. https://doi.org/10.18910/93181
井出和希, 中山健夫.その学術誌、大丈夫? 2024. https://doi.org/10.18910/94925
インタビュー記事:
プレダトリージャーナル問題から考える、私たちが責任を持ち続けること。https://note-infomart.jp/n/n26513f246def
Q1. 図書館での実務経験の中で、研究者は手っ取り早く粗悪学術誌であるかないかを知るために、ブラックリスト・ホワイトリストを求めがちです。そうした研究者に「逃れられない曖昧さ」を共有し、理解してもらうためにはどのように対応したらよいでしょうか。
A1. まずは、本日の資料やウェブサイトにも掲載した資材等をご活用いただければと思います。活用により、「逃れられない曖昧さ」を伴うことを共有いただけます。また、学術誌の特徴を言語化していく過程でも、質を二値的に判断することが難しく危ういという理解も深まるのではないでしょうか。図書館として資材を作成する際も、参考としてチェックリストやデータベースを共有することがあるかと存じます。その際、ある基準を満たすから/さないから、収載されているから/いないから、「いい、わるい」ではないことを強調することも大事です。観点を知り、個別の学術誌について「なぜ」そう考えるのかを言語化することを促す一文加えるという工夫もできるのではないでしょうか。なお、言語のもつ人種にまつわる歴史的背景も踏まえると、ウォッチリスト、セーフリストという表現がより適切であると考えます
(Ide K, 2024; https://doi.org/10.1080/08989621.2023.2267969)。
Q2. 大学や図書館はPredatory Jouranlとは言い切れないグレーな雑誌・論文についてどのように対応すれば良いでしょうか? グレーな雑誌であってもPredatory Jouranlと言い切れないのであれば業績としてカウントする、蔵書とするなど、通常のJournal同様に扱うということになるでのでしょうか?
A2. 最終的な対応は研究機関レベルの決断に依ることを留保した上で私見を述べます。偽のインパクト指標を用いているなど明らかな悪質性がある場合を除き、言い切ることは難しいですね。その際、研究者も交えて、「なぜ」カウントするのか、しないのかということを具体化していただければと存じます。意外と?印象に基づく場合もあります。複数のチェックリストやデータベースを参考に具体化、言語化することで、ある程度一貫性をもった方針を策定できるのではないでしょうか。その上で、例えば部局単位でコンセンサスを得る、意見を踏まえて方針を更新していくといったプロセスに進むことが妥当かと存じます。
Q3. DOAJが数年前に審査基準を厳格化した際、またPubMedがXMLを標準フォーマットとした際にも、日本の学会誌の多くが脱落しました。学術誌の基準がアップデートされつつある現在、著者としてだけでなく、そうしたジャーナルの編集委員をしている研究者はもっと自分ごととしてとらえる必要があると思います。
A3. なかなかそこまで考えている余裕が・・・という部分もあるかもしれないですが、おっしゃる通り編集委員の立場でも考える機会が増えることが望ましいですね。例えば、DOAJは収載基準を細やかに示していますし、言語の制約もありません(=日本語の学術誌も収載される)(参考: https://doaj.org/apply/guide/)。編集委員会として学術誌の質向上にかかる一つの通過点として設定して取り組むことを考えてみてもよいのではないでしょうか。取り組みの経験は、教育実践においても学術誌の質にまつわる考え方を伝達していくときに活かされるものと存じます。
Q4. 最近、若手教員がOA雑誌の特集号に投稿するサポートをしました。雑誌本体にはIFがありますが、特集号が毎月数十号も発行されており、きちんと査読されているか怪しいです。ただ、APC費用は安価で出版も非常にスムーズでした。「論文の内容には自信があるがお金がない」研究者がこうした雑誌を選ぶことについて、どのように思われますか?
A4. 若手教員と共に、中立的な立場で本当に投稿するかどうかを考えることが重要であると思います。例えば、「毎月たくさん発行されている特集号の質のバラツキはどうでしょうか?」と問いかけでみてはいかがでしょう。その上で、査読体制も踏まえ一定程度質が担保されていると考えられるのであれば、投稿しても問題ないと考えます。なお、IFに関しては付与対象が拡大されたこともあり、一層複数の情報源を活用して質を捉える重要性が増しています
(参考:https://clarivate.com/news/clarivate-announces-changes-to-the-2023-journal-citation-reports/)。
Q5. 投稿先を検討して自分としてはプレダトリージャーナルではないと判断して投稿しても、他の人の判断ではプレダトリージャーナルと判定されてしまうこともあるのではないかと思いました。弁明する機会があればよいですが、自分の知らないところでそう思われたら悲しい。そのあたりは大丈夫でしょうか?投稿先の選択理由を記入する制度がほしいです
A5. この問題は根深く存在しております。話題提供のなかでも少し触れましたが、「○○社は悪い」といった決めつけは残念ながら横行しています。急に変わることは難しいですが、「なぜ」を考える人が増えることを切に願うばかりです。本来、研究者間で成果について批判的吟味(critical appraisal)をできることが健全なのですが・・・。おっしゃる様に、仮に吟味が難しいとしても何らかの判断を下す前にコミュニケーションを取ることも必要です。一口に「○○分野に属している」といってもお互い知らないことだらけですから。
Q6. インパクトファクター然り、大学ランキング然りですが、良識のある学術的な判断やポリシーをアカデミア自身がもてずにいることが問題だと思います。
A6. 価値の基準や判断を他者に委ねてしまう、委ねざるを得ない状況になっていることは問題ですね(そもそも一つの価値に収束するものでもないですし)。本来、研究者や組織というのは、自分たちのやっていることについて言葉にすることが一番得意な担い手のはずでもありますし。このような背景からも、一つのアプローチとして学術誌の質について言語化してみる、それに伴走する仕組みをつくることを実践しています。
Q7. 即時OAが求められる中で、機関リポジトリに著者最終稿を載せる場合が増えると思います。その場合、研究者が判断した投稿先が、リポジトリに掲載するにはちょっと...というケースも起こりえるのではと考えました。そうした時には、やはりお互いの判断を言語化しつつすり合わせを行っていくしかないでしょうか?
A7. 事後の場合であれば、お示しのようにすり合わせをすることになるかと存じます。同時に、事前に(=投稿前の段階で)相談し、言語化する機会を用意できるかが重要であると考えます。研究者側に悪意がある場合はさておき、知らずに偽のインパクト指標や収載情報に騙されてしまうというパターンを予防することからはじめることができると、迷いを抱えた研究者にとっても嬉しいです。
Q8. いわゆるハゲタカでは無いジャーナルであっても、例えば、現在の為替で100万円を超えるAPCが必要な〇〇誌(※個別の学術誌名については事務局にてマスクしました)も、基盤Cの平均額と同等と考えたら、広い意味で同じではないでしょうか?
A8. 出版社側の金銭的な利益に繋がるAPCのみが粗悪さの構成要素ではありません。高リスクな学術誌の方が安価な設定(=投稿しやすい価格設定)になっている場合すらあり、透明性が重要です。○○誌の金額的なインパクトは非常に大きいのですが、それ以外の問題は限られていると判断するのなら、あくまでたくさんある選択肢のうちの一つとして位置付ければよいのではないでしょうか。当該学術誌に限らず、いわゆる権威の高さとAPCのバランスから投稿先として妥当でないと考える学術誌を積極的に避けるという選択もあり得ます。ただし、成果の認知向上への寄与や(変化を期しつつ細やかに抗いながら、現在の評価を取り巻く環境も踏まえて)ごく素朴なモチベーションといった要素も無視できません。