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Times Higher Education世界大学ランキングに関する申し入れについて

更新日:2019年09月05日更新

―研究力に関するランキング指標のより適切な運用を目指した要望―

 日本の大学における研究力の低下、論文生産の質(quality)・量(quantity)における日本の存在感の相対的な低下は深刻さを増しています。これまでにも増して、個々の大学において主体的な改革の努力を重ねることはもとより、URA (University Research Administrator)等の専門人材を活用した基盤的な研究環境の整備、国の科学研究費補助金などの研究費の充実など、国家の政策レベルで、適切な対応がとられることが急務となっています。

 その際、大学の研究力を客観的にかつ冷静にエビデンスをもって把握することが重要です。大学の研究力の把握を、一つの指標からだけではなく、複数の指標を組み合わせることが重要であることは言うまでもありません。

 その中、貴「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education:以下THE)」の世界大学ランキングにおいて、日本の大学の順位は年々低下しています。もちろん、世界大学ランキングの順位に一喜一憂することは本末転倒ですが、この結果を単なる一過性の短期的な結果として受け止めるだけでなく、大学として、中長期的な研究力の向上や大学改革にむけた自己の取り組みに積極的に活かしていく必要があると考えています。

 一方で、すでに多くの日本の大学や省庁等も把握している通り、大学ランキングにおいて、論文引用指標をはじめとする大学の研究力を評価する指標が決定的に大きな影響力を持っています。しかし、大学の研究力を、限られた指標で一面的に捉えることに対する不安と批判があることはご存じの通りです。限られた論文引用指数等を間違って適用してしまうと、各大学の研究力強化の実態とそぐわない、誤った評価となってしまうことを危惧しています。

 私たち研究大学コンソーシアム(Research University Consortium of Japan, RUC)では、研究大学における学術研究の発展のため、これまでに様々な提言等の情報発信を行ってきました。4年前には、前身の「大学研究力強化ネットワーク」(Research University Network of Japan)として、Times Higher Education世界大学ランキングに対し、ランキング指標の改善に関する要望を提出いたしました。これによって、キロオーサーペーパー(Kilo-author paper)のカウントの仕方などで改善がみられたものの、重要指標であるcitation指標に関する要望など取り上げていただけなかったことは残念です。そこで、今回あらためて、Times Higher Education世界大学ランキングに対し、研究力に関するランキング指標のより適切な運用を目指した要望を行うことといたしました。大学の研究力を一面的に捉えることの危険性の認識を共有し、冷静かつ適切な運用がなされるよう、要望いたします。世界的な視点で、研究大学とは何かについて多様な考え方を共有し、適切な対応をいただけるよう切に要望いたします。

 

研究大学コンソーシアム・研究力分析タスクフォース

(本件に関する問い合わせ)
担当:自然科学研究機構 小泉周 特任教授
nins-ura-jimu@nins.jp

申し入れ内容:

(1) 日本の研究大学群とのCommunicationの継続について
 4年前に我々から申し入れを行って以来、日本の研究大学群としての情報交流は途絶えていた。我々としては、継続的なTHEとの相互コミュニケーションが重要であると考えており、今後、この申し入れをきっかけとし、相互の対話の場と信頼を構築していくことを要望する。

(2) 研究指標およびcitation指標について
A) Citation指標について
Citation指標は、現在、平均化されたFWCI(Field Weighted Citation Impact)のみに過度に偏重している。Citationの指標としてFWCI(Field Weighted Citation Impact)を使って分野補正および国別補正したCitationの平均を評価指標に用いている。FWCIはこの目的のための優れた指標であり、今後も継続的に使用する必要があることに同意する。しかし、一方で、この方法では、ごく少数の一過的に極端な引用数を集める論文によって大学全体のFWCIが極端にゆがめられる可能性がある。FWCIだけでは、多様な研究の特徴を有する大学としての研究力を正しく把握できるものとは言えない。FWCIを用いるだけでなく、いくつかの指標を組み合わせることを要望する。
例えば、Citation指標としては、FWCI以外に、以下のような指標が考えられる。
A-1) Citationの評価に、FWCI(Field Weighted Citation Impact)の平均だけでなく、分野補正されたCitation/研究者数も使用することもありえる。分野補正されたCitationの総数(例えば、個々の論文のFWCIの合算値)を(FTE換算した)研究者数で割ったCitation/研究者数もFWCIと合わせて用いるほうが、より適切であると考える。これにより多様な特徴をもった大学の規模による補正ができるものと期待できる。
A-2) FWCIのような平均化した論文引用指数だけでなく、一定のレベルの質を一定の量以上もった「厚み」(ATSUMI, substantiality)のある研究力も評価されるべきである。「厚み」を評価する指標として、Top10%論文数のような、ある一定の優れた論文を一定数以上出せるかどうかも世界的な研究大学の研究力の指標となろう。そこで、Top10%論文数を研究者数に対してどの程度数発表されたかのカウントをする指標(Top10%論文数/研究者数)の導入も良い。

B) 論文の分数カウントについて
千人以上の多数の著者が名を連ねるKiloオーサーペーパーの扱いを見直す対応は、歓迎する。ただし、数百人規模の著者の論文であっても、大型の機器を中心とした共同利用・共同研究の推進など国際的にも重要な研究体制の下で発表された論文を適切に評価することは必要である。複数著者による論文を適切に評価するため、すべての論文について、論文数およびCitationを、論文著者の人数ないしは著者所属機関数によって分数カウントすることを要望する。

(3)Further considerations
C) 論文指標等におけるFaculty数について
論文指標等の分母となるFaculty数は、大学の自己申告が用いられているが、カウントの仕方など国際的に統一化されているわけではなく、これによってスコアが変わりえるのは問題がある。世界共通の客観的な基準に基づき、把握されるべきである。日本の大学群は算出方法についてあらためて確認するとともに、THEには、その徹底した運用を要望する。将来的には、第三者による客観的なデータベースを用いたFaculty数の把握が求められる。

D) Non-Englishジャーナル掲載論文の扱いについて
それぞれ各国の母国語による論文などNon-Englishジャーナル掲載論文は、そもそも対象としている読者が限定されており、世界的な引用の対象とはなりにくく、各言語の特性を踏まえた補正が難しい。こうした現状にあっては、英語論文と同等に研究力を比較するのは必ずしも適切とはいえない。そこで、Citationの分析については、たとえデータベースに掲載されている論文だったとしても、Non-Englishジャーナル掲載論文を集計対象からはずすことを要望する。

E) ランキングの発表の方法について
世界大学ランキングの結果を、大学の研究力の向上や研究環境の改善に資するために、Pillarだけではなく各大学の13項目のScoreや、自大学のScoreに変換する前の実データ値(Value)について、無償提供範囲の拡大を要望する。日本の研究大学群はTHEの世界大学ランキングの作成に無償で協力しており、日本の大学の研究力強化に資するフィードバックをTHEからいただきたい。
また、順位だけでなく、ランキングされた大学全体の中でのパーセンタイル表記を併用してほしい。これにより、ランキングされた大学数が増えても、相対的な位置づけを知ることが出来る。

以上。

申し入れPDFなど

研究力分析タスクフォース・世界大学ランキングワーキンググループ

北海道大学
東京農工大学
東京工業大学
名古屋大学
大阪大学(研究力分析タスクフォース・座長 菊田隆)
岡山大学
広島大学
九州大学
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自然科学研究機構

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